2026.7.12.

前から見たら、もったいない。
このバッグを背負っている時は、できれば後ろで出会ってほしい。
前から見れば、静かな黒いリュックです。
でも後ろ姿になると、少しずつ景色が変わっていく。
そして、もし階段を上っていたら最高です。
本人には見えない、このバッグが一番綺麗に見える景色がそこにあるので。






deserticのバッグでは珍しく、ベースは黒。
これまでの白いキャンバスシリーズとは、最初から違う考え方で作られたバッグなんだと思います。
以前はOUTDOOR PRODUCTSとのコラボレーションでもバックパックを作っていました。
定番のデイパックをベースにしたモデルです。
あれは完成されたベーシックなバッグにヴィンテージニットを重ねる面白さがありました。
もちろん、あの感じも好きでした。
でも今回は、その先へ進んでいます。
ベースを手掛けているのは『RAMIDUS』。
バッグを作らせたら間違いないブランドです。
完成度の高いバッグをベースにしながら、今回は見えないところまでしっかり手が入っています。
例えばフロントポケット。
一見すると普通のファスナーポケットですが、中にはさらに二つの仕切りがあります。
しかも、その深さはサイドポケットの切り替えラインとぴったり揃えられている。
つまり、パッチワークの部分そのものが収納の構造として作られ、その上からさらにフロントポケットを重ねているような、とても贅沢な作りです。
ここまでやらなくても、バッグは作れます。
でも、ちゃんとやる。
しかも、それをことさらに語らない。
そういう仕事が、このバッグ全体の空気になっている気がします。
そして、このマットな質感も、とても好きです。
もしツルッとした高級感のあるナイロンだったら、このヴィンテージニットはここまで自然に馴染まなかったと思います。
素材同士の空気がちゃんと揃っている。
だから新品なのに、最初から少し時間が流れているような雰囲気があります。
さらに細かいところでは、ファスナーの引き手までヴィンテージニット。
閉めていると、ちょこんと柄が顔を出します。
背負っていても、その小さな柄が時々ちらっと見える。
こういう遊びも、このバッグらしいところです。
価格は以前のOUTDOOR PRODUCTS版より2倍ほどになりました。
決して安いバッグではありません。
でも、この作りを見れば「ここまでやったら仕方ないな。」と思ってしまいます。
バッグそのものの完成度が、一段階深くなっています。

ここまで書いておいて、実は僕が一番好きなのは構造でも、生地でもありません。
背負った姿なんです。
前を歩いている人がこのリュックを背負っている。
その後ろ姿を見て、理屈抜きに「いいな」と思う。
可愛いとも違う。
格好いいとも違う。
なんて言えばいいんだろう。
理由はうまく説明できないけれど、景色としてどうしても心に残るもの。
このバッグを見ていると、一つ思い出す景色があります。
尾道の夜景です。
しかも僕は、尾道側からではなく、対岸の向島から眺める夜景の方が好きなんです。
意外と知られていませんが、その方がずっと綺麗。
でも何が綺麗なのかと聞かれると困ります。
千光寺へと続く山道の光なのか。
静かな海なのか。
街のネオンなのか。
きっと、全部なんでしょう。
どれか一つを切り出しても、あの景色にはならない。
全部が重なって、初めてあの特別な夜景になる。
このリュックも同じなんです。
ヴィンテージニットだけでもない。
黒いベースだけでもない。
形だけでもない。
全部が重なって、誰かが背負った時に、初めて一つの景色になる。
だから僕は、前から見るより、後ろ姿に惹かれるんだと思います。




最後に一つだけ。
これは、下から覗かれるのが正解なバッグです。
底面まで、全部ヴィンテージニット。
本人には絶対に見えない、一番贅沢な景色がそこにあります。
だから、もし街で出会うなら。
前から見たら、もったいない。
できれば後ろで。
そして、できれば階段で。

