近づいて初めて、気づく違い
遠目には静か、近づくほどに深い。
Frank Lederの『Dead Stock Brown Wool Coat』は、ぱっと見は無地のウールコートのようで、近くで見て初めて、生地の中に潜む色や表情の豊かさが立ち上がってくるコートです。
実は紹介するタイミングをうかがっていました。
ここ最近ようやく本格的に寒くなってきて、「そろそろ大物を出そう」と重い腰を上げた、というのが正直なところです。
離れて見ると落ち着いているのに、近づくほどに情報量が増えていく。
その佇まいを前にすると、今季のセレクトの中でも特別な存在だなと思わされる。
うちの中では間違いなく“大ボス”、ラスボス枠のコートです。
展示会でこの生地を見た瞬間、「これは今おさえないとヤバいやつだ」と思って、その場でオーダーを決めました。
振り返ると今季は、もう完売してしまいましたが、QUILPのブラウンのコートも含めて、かっこいいウールのコートがどちらもブラウンだった年でもあります。
どちらかを選ぶ理由が見つからず、結果的に両方セレクトしましたが、方向性は違っても、いまの気分をしっかり捉えているという点では共通しています。
無地の顔をした、豊かなウール
このコートに使われているブラウンウールは、ブラウンからダークブラウンを軸に、ベージュやオリーブ、ところどころに赤や黄色の気配まで含んだ、多色の糸が混ざり合って織られています。
糸の太さにもばらつきがあり、その違いが生む立体感によって、無地のようでいて決して単調ではない、奥行きのある表情が生まれている。
少し起毛したモッサのような質感で、しっかりとした厚みがありますが、野暮ったさはなく、どこかハリスツイードを思わせるような温かみと品の良さが共存しています。
軽さを売りにするタイプではなく、「ちゃんとウールのコートを着ている」という実感が、そのまま安心感につながる生地です。
しっかりしているのに、素直に着られる
それだけしっかりした素材感ですが、着てみると意外なほど重さを感じにくい。
ラグラン袖による自然な落ち感と、肩まわりにわずかな余白を持たせた設計が効いていて、動いたときの突っ張りもありません。
身幅も必要以上に広げず、オーバーサイズとは違う、収まりの良いバランス。
去年好評だったフランクのブラウンのコートと比べると、全体の印象はややコンパクトで、すっきりと見える仕上がりです。
静かに効いてくる、仕立てと佇まい
フロントはフライフロント仕様で、表情はあくまで静か。
首元には風や雨を防ぐチンストラップが付き、必要に応じて取り外しもできます。
着丈は膝下までしっかりありますが、深めに入ったバックスリットのおかげで足捌きは軽く、日常の動きの中でもストレスを感じません。
ポケットの配置も本当によく考えられていて、胸下あたりに斜めについたハンドウォームポケットと、その下に配された大きなパッチポケットの位置関係が絶妙です。
手を入れたときの収まりも良く、物の居場所も自然に決まる。
このあたりは、長く着ることを前提にしたコートだなと感じさせられます。
裏の仕立ても、フランクらしさがはっきり出ています。
前身頃、後身頃、袖裏でそれぞれ異なる素材を使い分け、袖裏にはコットンリネンのストライプ。
表からは見えない部分ですが、正直この身頃の裏地だけで、もう一着コートかジャケットを作ってほしいと思うくらい、裏まで抜かりなくかっこいい。
フロントや袖口に使われたアンティークボタンも、主張しすぎず、全体の空気に静かに溶け込んでいます。
冬の時間をそっと任せる
ワイドパンツでも、すっきりしたパンツでも受け止めてくれる普遍的なシルエットなので、難しいことを考えずに羽織って成立する。そのうえで、鏡の前に立つと、自然と気分が上がる。
化繊の便利さとは違う、天然素材ならではの温度や奥行きが、袖を通すたびに静かに実感できるコートです。
今季はS〜Lまで揃えました。そろそろ腰を据えて着続けられる一着を迎えたいな、と思っている方にこそ、まずは袖を通してもらいたい。派手ではないけれど、冬の時間を安心して預けられる、そんなコートです。


















