曇った空のような色に惹かれて
スモーキーなグレーの奥から、タバコの葉のようなブラウンが覗く。
このコートを見たとき、まず惹かれたのはそのなんとも言えない曇った色でした。
一見すると、煙ったようなグレー。
でも近くで見ると、その表面は均一ではなく、ところどころに下地のブラウンが滲むように現れています。深い黒でも、ただのグレーでもない。少し乾いた空気をまとったような、曇った冬空のような色。
フランクは、この色を「ベルリンの空の色」と呼んでいるそうです。
モールスキンの意外な表情
使われているのは、プレウォッシュをかけたモールスキン。
ただ、いわゆるモールスキンに対して思い浮かべる、厚みがあってしっとり柔らかく、少し起毛したあの質感とは少し違います。
もともとは裏地に使われているブラウンの生地をベースに、上からチャコールに染め、その後さらに洗いをかけることで、この生地には独特の表情が生まれています。
表面の色が少し擦れたように見えるのも、その工程によるものです。
触ってみると、生地は思っていたより少しパリッとしていて、むしろ高密度のキャンバスに近いような手応えがあります。
見た目には迫力があるのに、最初から少し馴染んだような空気があって、新品特有の気恥ずかしさがない。
先日ご紹介したWashed Woolを使ったZip Up Shirtもそうですが、フランクの服には時々そういうものがあります。
最初から何年か手元にあったかのような、不思議な落ち着きがある洋服です。
時間とともに浮かび上がる色
この生地の面白さは、今の表情が完成形ではないところにもあると思います。
着込んでいくうちに表面のチャコールはさらに馴染み、下にあるブラウンが少しずつ浮かび上がってくるはずです。
今はまだグレーが前に出ていますが、これから着る人の時間とともに、その見え方は確実に変わっていく。
フロントについたアンティークボタンもまた、この生地の変化とよく似合っていて、いずれ色のムードが少しずつ近づいていくような気もします。
黄みがかったブラウンのニュアンスも、とてもいい色です。
単なる茶色というより、古い道具や乾いた土、使い込まれた革のような静かな深みがある。
派手ではないけれど、しっかりと情緒がある色。
グレーの奥にその色が潜んでいることで、このコート全体に味わい深い奥行きが生まれています。
静かな見た目と動く背中
背中の作りも印象的です。
シンプルなコートですが、背中の深めの位置にプリーツが入り、着たときの動きにさりげなく表情が出ます。
前から見ると、落ち着いた静かな佇まい。
でも歩いたり腕を動かしたりすると、背中のプリーツが開き、生地がふっと大きく動く。
後ろ姿には思いのほか迫力が生まれます。
その前後の表情の違いも、このコートの魅力だと思います。
静かに育っていくコート
見た目にはしっかり存在感があるのに、着ると不思議と構えなくていい。
色ムラのある表情のおかげで、多少の汚れやシワも神経質にならずに済みそうですし、むしろそうした日々の跡も自然に受け止めてくれそうです。
気を遣って大事にしまい込む服というより、ちゃんと日常の中で着て、少しずつ自分のものになっていく服。
そういう付き合い方が似合います。
フランクリーダーらしい質実剛健さがありながら、色の重なりや経年変化の面白さもきちんと備えている一着。
時間とともに、ゆっくりと表情を深めていくコートです。


















