カジュアルへ振り切った、今年の決断
今年も kado 別注の QUILP by Tricker’s が届きました。
3回連続で選んだ 『M7401 Oxford Shoe』。
レザーは 『Waxed Suede Peanuts』。
名前の通りピーナッツのような、少し黄味を含んだベージュのスエードにワックスをのせた、抜群に良い色です。
これまでの別注は『どんなスタイルにもいける万能選手』をイメージしてきましたが、今回は思い切ってカジュアルに全振りしました。
ジーパン、チノ、軍パン、畝の太いコーデュロイ、オールドタウンのトラウザーズ……
写真の通り、素材も太さもバラバラなパンツを片っ端から合わせても全部しっくりくる、そんな一足です。
三者の意志が重なって生まれたかたち
箱のロゴを眺めるだけでも、この靴の背景の濃さが伝わってきます。
QUILP / mode and artisans
TWO-FOUNDATION
The Old Curiosity Shop
Tricker’s of England
森下さんが掲げる “mode and artisans” というコンセプトを、ロンドンの The Old Curiosity Shop の協力を得て、30年以上前のジョン・ムーアさんのラストをノーザンプトンの Tricker’s が受け取り、それぞれの仕事を持ち寄った結果生まれたのが、この丸いつま先のぽってりとしたオックスフォードです。
190年続く老舗のラインナップにも存在しないフォルムでありながら、どこかビルケンのレースアップのようなコンフォートシューズの安心感もある。
誰かひとり欠けても完成しなかったであろう、ちょっとした奇跡のような靴です。
愛嬌のあるクラシック、という矛盾が叶う形
形は今回もオックスフォードシュー。
アイレットがヴァンプの内側に隠れる内羽根のデザインに、キャップトゥと控えめなブローギング。
トゥの丸みはしっかり強く、ノーズは短め。
甲高幅広な日本人の足にも合いやすく、見た目もどこか愛嬌があって、スラックスに合わせても堅苦しくならない。
足もとだけドレスアップしすぎて浮いてしまう心配がない革靴です。
Peanuts がもたらす奥行きと『育つ楽しさ』
そこに今回の 『Waxed Suede Peanuts』 が乗ることで、靴のキャラクターが一気にカジュアル側へ振り切れました。
毛足の立ったスエードにワックスが染み込むことで生まれる濃淡。
光の当たり方で表情がくるくる変わる奥行き。
新品のときからヴィンテージのような深みがありつつ、履き込むほどにワックスが馴染んで、擦れた部分が少し明るくなったり、油分で濃くなったりします。
きれいに保つことも、ラフに経年変化を楽しむこともできる、懐の深い素材です。
グレンチェックのスラックスには上品に、オリーブの軍パンには自然に馴染んでくれる。
色落ちしたインディゴデニムにも、ブラックデニムにも、土っぽいコーデュロイにも、それぞれの良さを邪魔せず足もとが整う。
淡いトーンのパンツなら柔らかく、濃いトーンなら足もとが軽く見える。
ワークシャツ、カバーオール、ニット、スウェット、OLDTOWN のセットアップにも、ただ置くだけでちゃんと成立する。
いわゆる『きれいめカジュアル』というより、日々の服装の延長線上にそのまま乗せられる革靴、という立ち位置です。
作りの良さが、履くほどに積み重なる。
ソールはおなじみのダイナイトソール。
元々ゴルフ用に開発されたソールなので、雨の日でもしっかりグリップし、減りも遅い。
底付けはもちろんグッドイヤーウェルト製法で、ストームウェルトまで巻いています。
アッパーとライニング、ウェルトがしっかり縫い合わされ、その下にはぎっしり敷き詰められたコルク。
履き込むうちに少しずつ自分の足型へ沈み、中敷きの厚い革が足裏の熱で柔らかくなる頃には、「あ、自分の足を覚えてきたな」と嬉しくなる瞬間が訪れます。
とはいえ、中村さんの靴のように『箱から出してすぐスニーカー並みの履きやすさ』という靴ではありません。
最初はワックスが乗ったスエードと、しっかりしたライニングが頼もしい分だけ硬さもある。
人によっては馴染むまでに少し時間がかかると思います。
でも、その期間を一緒に過ごした分だけ、自分だけのフィットがちゃんと返ってくる。
痛みを我慢して修行をしてほしい、という話ではなく、「ちゃんと作られた靴ってこうやって育つんだな」と実感させてくれるタイプの一足です。
ケアが不安な方は、近くの方ならいつでも持ってきてもらえれば、僕が責任もってメンテナンスのお手伝いをします。
『これがあれば大丈夫』と自然に思える一足
世に革靴はたくさんありますが、このラスト、このバランス、この素材、この色。
ここまでカジュアルに振り切りながらも説得力を失わない靴は、ありそうで本当に無いと思います。
雑誌や誰かの評価ではなく、自分の感覚で選ぶ『これがあれば大丈夫』を探している方に、ぜひ履いてみてほしい別注です。
今回もサイズは各サイズ一足ずつ。
次に QUILP by Tricker’s をお願いするときには、また別の靴を作る予定です(実はもう、ぼんやりイメージがあります)。
長く付き合えるカジュアル用の革靴を探していた方は、ぜひ今回の別注を試してみてください。
履くたびに、自分のクローゼットと足元の景色が少しずつ豊かになっていくのを感じてもらえると思います。























