ポストがつくる特別な『コート』
2024年春夏に登場し、僕自身も相当着込んだ 『USN Utility Coat』。
その一着が、今季はウールコットンネップの重厚さのなかに柔らかさがのぞく、奥行きのある表情をまとって秋冬仕様に生まれ変わりました。
春夏の軽やかさとはまったく違う、深まる季節の空気にそっと寄り添う佇まいです。
ポストの長い歴史の中でもコートのリリースはごく稀で、僕の記憶では今回のような“コートらしいコート”はどこかの別注を除くと二度目。
そう考えると、このタイミングでの登場はやっぱり特別に感じます。
何を重ねても形が決まる、頼もしさ
ベースになっているのは、1970年代のアメリカ海軍で使われていたレインコート。
後継の『All Weather Coat』よりもずっとシンプルで、飾り気のない実用本位のデザイン。
そのおかげで、どんなトップスの上に羽織っても変に主張せず、スッと形が決まる。合わせ方を深く考えなくていい、そんな頼もしさがあります。
コンパクトな見た目とは裏腹に驚くほど動きやすい肩まわりは、前身頃と後身頃で接ぎ方を変えた〈スプリット・ラグランスリーブ〉。
静かな佇まいの中に、可動域の広さという“余裕”がしっかり備わっています。
語りすぎない美意識と、小さな実用の積み重ね
フロントのチンストラップ、ベントを取っていないすっきりとしたバックシルエット、美しく落ちていくフレアライン。
上半身には裏地が入り、レイヤリングも滑らか。
スロテッドポケットのおかげでインナーへのアクセスも良く、細かい使い勝手まできちんと考えられていて、必要以上に語らない“ポストらしさ”が端々ににじんでいます。
そして今回の核となるのが、このウールコットンネップの生地。
近くで見ると粒の立ったネップが豊かな表情をつくり、少し離れると自然なチェックのようにも見える。
無地っぽさと柄っぽさが絶妙に共存し、冬の光の中で陰影がふわっと立ち上がる、なんとも魅力的な質感です。
太さの違う糸が絡み合うことで生まれる立体感は、冬の重たい空気にしっかり耐える重厚さと、さりげない温度をあわせ持っています。
冬の空気を受け止める奥行きと、装いを自由にする余白
シルエットはすっきり。
襟元にはどこかフレンチの空気があり、立てても折っても自然に収まる。
着こなしの懐がぐっと広がるのも、このコートの“実用品としての懐の深さ”ゆえだと思います。
静かな佇まいの中に芯があり、合わせる服のジャンルを選ばない。
日々の装いに少し余白が生まれて、ワードローブがふっと軽やかになる。
“ユーティリティ”という名前の意味が、袖を通すほどにしっかりと感じられる一着です。












