説明
見えてしまった、色の粒
わたパチってご存知ですか?
今から10年ほど前に廃盤になってしまった駄菓子なんですが、甘くて、そんなに早く溶けない綿菓子の中に、口に入れるとパチパチっと弾ける、今思うとかなり刺激的なものが入っていました。
僕は小学生の頃あれが好きで、よく食べていました。
主にぶどう味を食べていたので、紫色の記憶が強いんですが、きっといろんな味があったんだと思います。
今回のHOPPER’S BRUNCHの展示会で、このシャツを見た時、なぜか真っ先にそれを思い出しました。
僕は展示会に行っても、最初からラインナップを全部見ないようにしています。
森下さんと話しながら、少しずつ服を見ていくのが好きなんです。
でも、これは見えてしまいました。
シャツなのにハンガーに吊られていなくて、ニットみたいに平置きされていたんですが、横を通った時に目に入ってしまった。
白地の中に、赤、青、緑、オレンジ、紫。
細かなネップがランダムに入り混じっています。
もちろん、こんな配色のわたパチはなかったと思います。
でも、もしアソートのわたパチがあったら、たぶんこんな感じだったんじゃないかと。
何が言いたいかというと、僕はあの時と同じくらいパンチを食らったということです。
しかも、よく見るとネルシャツ。
でも、いわゆる冬のネルシャツみたいに毛羽立ちが強くて、見るからに暖かそうな生地ではありません。
表面にはわずかに起毛感がありますが、それほど厚くない。
触ってみると、可愛い見た目のわりに意外としっかりしていて、ちゃんとタフそうです。
ネルなのに重たくない。
まだ暑さの残る時期からでも、これならすぐ着られそう。
というより、すぐ着たい。
そう思いました。
素直な形に、厄介なくらい楽しい生地
10人いたら10人が「いいじゃん」と言う服ではないと思います。
でも僕は完全にツボでした。
しかも、この生地が乗っているのが、ものすごく素直なシャツなんです。
少し身幅にゆとりを持たせた、リラックスフィットのレギュラーカラー。
胸にはポケットがひとつ。
変わった襟でもなければ、妙な切り替えがあるわけでもない。
なんだかこれすら疑ってしまうくらい、素直に着やすい形です。
でも、着てみて分かったんですが、これを『普通に着れるシャツ』で終わらせたくないんです。
合わせやすいのは事実。
でも、それだけなら僕もここまで興奮していません。
やっぱり主役は、このネップです。
見た瞬間にわたパチを思い出した色の散らばり方と、生地そのものの面白さ。
その強さを残したまま、ちゃんと着られる形になっている。
僕はそこが、このR-Shirtの面白いところだと思います。
らしくないのに、やっぱり森下さん
僕の好きなブランドでいうと、QUILPもHOPPER’S BRUNCHも、いわゆるベーシックなシャツをそれほど作ってこなかったと思います。
少なくとも僕の記憶では。
シャツでいうと、ポストの方がもっとみんなが着やすい立ち位置にいる。
僕はどちらかというと、ムッツリした服が好きです。
真面目な顔をしているのに、どこか不真面目だったり。
優しい顔をしているのに、少し腹黒かったり。
そういう服に惹かれます。
そして、それが大体森下さんの服だったりします(笑)。
そこにポストやフランクを合わせていく。
だから本来なら、こんなに素直なレギュラーカラーシャツが出てくるとは思っていなかったブランドから、ドンピシャな一枚が来てしまった。
ちょっとしたプチパニックです。
イタリアの生地を、日本で着たい形に
生地は、イタリアの老舗シャツ地メーカー『TESSITURA MONTI』のデッドストック。
1911年創業で、アルビニやオルトリーナと並ぶ、イタリアを代表するシャツ地メーカーのひとつです。
今回使われているのは、自社倉庫に残されていた微起毛のフランネル。
すでに生産を終えている生地なので、同じものをもう一度作ることはできません。
イタリアのシャツ地と聞くと、僕の勝手なイメージでは、イタリアの親父が身体にピタッとしたシャツを着ている姿が浮かびます。
でも、この生地を日本に持ってきて、こんなゆったりしたシルエットのシャツにしてくれた。
これ、地味にでかいことだと思っています。
生地だけを見ればかなり個性的なのに、着るためのハードルはちゃんと下げてある。
だから「面白い生地だな」で終わらず、ちゃんと着たいところまでいくんです。
生地は綺麗。
色彩も美しい。
でも、着方は気取らなくていい。
一枚で着てもいいし、ボタンを開けて羽織ってもいい。
もう少し寒くなればジャケットの中にも入る。
合わせやすいのは確かなんですが、合わせやすいから存在感が消えるわけではありません。
ちゃんと、このシャツを着ている楽しさが残る。
そこがいいんです。
秋冬に、色を散らす
写真を撮りながらボトムスを考えてみても、あらあら、なんでもいけるじゃないと。
軍パン。
少しスラックス寄りの土色のパンツ。
DAVISみたいな太いパンツ。
チャコールや黒でもいい。
ネップって柄ではないので、ちょっと立ち位置がずるいんです。
無地のつもりでも着られるし、柄物みたいに色を拾って遊ぶこともできる。
遠くから見れば白がベース。
でも近づけば、いろんな色が散っている。
なんだったら、印象派の絵みたいにも見えてきます(笑)。
今シーズン、ポストやササフラスも含めて、僕自身かなりダークトーンの服を選んでいます。
秋冬はどうしても全体が暗くなりやすい。
そんな中に、この白と細かな色が入ると、一気に華やかになるんです。
とはいえ、派手な柄シャツを差している感じではない。
大人のポップさ、とでも言えばいいんでしょうか。
こういうのを、おじさんが着ている方が僕は楽しいと思います。
もちろん女性が少しゆったり着ても可愛い。
僕でサイズ1がちょうどいいくらいです。
サイズ2なら、だいたい173cmから180cmくらいの方。
サイズ3は、普段ポストやササフラスでXLを選ぶような方にイメージしてもらうと分かりやすいと思います。
ぜひ、ちょっとチャレンジしてみてほしいです。
インディゴツイルより、わたパチ
ちなみに同じR-Shirtでは、もう一つTESSITURA MONTIのデッドストックを使った、綺麗なインディゴツイルもありました。
アメリカンなシャンブレー顔ではなく、もう少し品のある綺麗な顔をしたインディゴツイル。
普通に考えたら、そっちの方を多く仕入れますよね。
僕もそう思います。
でも実際は逆でした。
ほぼ全部、わたパチ。
インディゴツイルは、好きそうな人の顔が浮かんだので少しだけ。
そのくらい、僕はこの生地にやられました。
可愛いだけのシャツではありません。
生地は思ったより頼もしく、ネルなのに重たくない。
素直に着やすい形なのに、普通の白シャツにはならない。
合わせやすいのに、ちゃんと着る楽しさがある。
たぶん僕がこの秋冬、いちばん最初に着たいと思ったシャツです。
大人になって、もうわたパチは食べなくなりました。
でも、こういうわたパチなら、まだまだいけそうです。