説明
誰が、何のために織った布なのか
格子の骨格は、焦げ茶と黒。
その枠の中を、ベージュとオレンジ、コーラルの糸が埋めている。
フランクの話では、ワルシャワで見つけた、およそ1970年代の生地だそうです。
手がかりは、それだけ。
でも、揺らぐ格子の線を目で追っているうちに、織った人の手つきまで想像したくなります。
均一ではない糸が、ひとつの格子をつくる
手に取ると、まず伸び方が面白い。
縦にも横にもほとんど伸びず、斜めにだけ少し動く。
見た目にはニットのような膨らみがありますが、触っていると、やはりこれは織物なんだと思います。
ふわっとしたループの糸、平たいテープのような糸、撚りのかかったコーラルの糸。
性格の違う糸が、少しずつ隙間を残しながら重なっています。
密度は緩く、ふくらみがある。
重厚なのに、硬くない。
きっちり揃いすぎていないところに、人の手仕事のような温かさを感じます。
茶に見えていた部分にも、近づくと黒が潜んでいる。
織物なので、裏返すと、今度は茶と黒の組み合わせが多く現れて、雰囲気ががらりと変わります。
一枚の布に、表と裏で別の表情がある。
古い布に、フランクの解釈を重ねる
この布は、もともと何になるはずだったのでしょう。
コートか、ジャケットか、それともスカートか。
もちろん、想像でしかありません。
ただ、およそ50年前のどこかで誰かが織った布を、フランクが見つけて、ベストにした。
そこに加わるのが、縁取りのローデンウールです。
フランクが好んで、よく使う生地。
アルプス周辺で古くから親しまれてきた、目の詰まったウールです。
ワルシャワで見つかった古い布に、アルプス周辺で古くから使われてきたローデンウールを合わせ、フランクがひとつの服にする。
そう考えると、国という括りより、もう少し大きな文化圏の中で見たくなる一着です。
形は、シンプルなVネックのベスト。
襟ぐり、袖ぐり、胸のポケットにだけ、焦げ茶のローデンを切り替えています。
ポケットの口は、あえて切りっぱなし。
この濃い縁取りが、賑やかな格子をきゅっと引き締めています。
重ねることで、柄の見え方が変わる
身幅は広めで、着丈は短め。
Lサイズで、168cm・65kgの僕がちょうどいいです。
展示会で試したMは少しピタッとしたので、うちではLだけを仕入れました。
細身の方なら175cmくらいまで、女性がゆったり着ても可愛いはずです。
入荷は、この1着だけです。
黒いジャケットの下では、縁取りが溶けて、格子だけが浮かび上がる。
ツイードのジャケットの下では、ローデンの茶が襟元で静かにつながる。
暖かさを求める服ではありませんが、重ねるだけで、その日の空気が変わります。
完成した柄ではなく、変わっていく布
この生地には、もうひとつ特徴があります。
ナチュラルの糸の一部に、濃いめのベージュの、練り物のようなものが付いているのです。
固めた砂のような質感で、着ているうちに、ポロポロと少しずつ取れていきます。
太さはまちまちで、生地全体に、一定のリズムで入っています。
他の服に色がつくことはありませんでした。
展示会のサンプルでは、それがすでにほとんど取れていて、下地のナチュラルの糸が表に出ていました。
着ていくうちに、生成りの糸が顔を出して、この布の色の印象は、少しずつ変わっていくはずです。
誰が、何のために織った布なのか。
その答えは、たぶんもう、誰にも分かりません。
でも、分からないからこそ、想像しながら着られる。
古着を楽しむように、思いを馳せながら、自分なりに。
これから変わっていく格子の表情も、その時間の一部です。