説明
迷路を着る
近くで見ると、どこまでも目で追いたくなる生地です。
ネイビーとナチュラルの糸が入り組んで、小さな形が次の形へと続いている。
鎖帷子のようにも、迷路のようにも見えます。
二色の糸で織られているのに、単純な繰り返しには見えない。
目で辿っているうちに、どこを見ていたのか分からなくなります。
でも、着て少し離れて見ると、思いのほか落ち着いている。
細かな織りがひとつの濃い色にまとまり、近くで見ていた時とは印象が変わります。
この織り機で、今も作る理由
このウール地を作っているのは、オーストリア・グラーツ近郊の毛織物工場です。
ウールの生地を専門に織っていて、今も古い織り機を使っています。
触れると細かな凹凸があって、織りが立体的です。
柔らかさや軽さを売りにするような生地ではありません。
でも、この入り組んだ織りと、二色の糸から生まれる深い色を見ていると、ここが古い織り機を動かし続けている意味を考えたくなります。
今の織り機なら、もっと速く、費用も抑えて作れそうです。
それでも、この織り機を残している。
工場の人に直接聞いたわけではありませんが、手間や人の手をかけることで生まれる、この生地の味わいや色を、作っている人たちがちゃんと分かっているんじゃないかと思うんです。
そして、フランクがわざわざここの生地を選ぶ理由も、そこにある気がします。
昔のものだから、というだけではなく、そこにしかないものを見ている。
古い布を探し続けることと、古い織り機で今も作られている布を選ぶことは、きっとつながっている。
ゆったりしていても、芯はある
その生地を使った、長めのスタンドカラーシャツです。
袖口にはギャザーが入り、背中はヨークの下のプリーツから生地が広がります。
身幅にも袖にも充分なゆとりがあり、身体をきっちり包み込まない、緩やかな縦長のシルエットです。
それでいて、正面から見るとだらしなく見えない。
効いているのは、特徴的な前立てです。
厚みのある生地が重なることで、胸元から裾へ、一本の芯が通ったように見える。
両側の身頃はゆったりしていても、真ん中の縦の線が全体を引き締めています。
その前立ては、下端で丸くふくらんで終わり、そのまま裾のカーブへとつながっています。
胸元から真っ直ぐ下りてきた線が、最後に柔らかく曲がる。この形が印象に残ります。
横から見ると、サイドには深い切れ込みがあり、前後の裾がサイドに向かって丸く持ち上がっています。
脇からパンツが覗くので、長い丈でも重たく映りません。
襟は小さなスタンドカラー。
複雑な生地に対して首元の形が簡潔なので、織りの表情と、縦に並ぶボタンが際立ちます。
フランクの服には、ほとんど毎回ヴィンテージのボタンが使われています。
そのたびに、生地とボタンが、最初からこの組み合わせで売られていたかのように馴染んでいるんです。
今回も、飴色がかったベージュの色味と艶が、この濃いウール地によく合っています。
小さなボタンなのに、生地の迫力にも負けていない。
この相性は、やっぱり最高です。
羽織っても、少しは見せたい
一枚で着れば、織りも形もたっぷり見える。
でも、僕は上から何か羽織った時も好きです。
カーディガンの裾から、シャツの丸い裾が少し出る。
ネイビーのダスターコートを羽織ると、胸元にだけ、細かな織りとボタンが覗く。
長い丈を隠すより、少し出して着たい。
そのためにも、この深いサイドの切れ込みと、丸い裾がいいんです。
生地を見たくて手に取ったシャツですが、着てみると、前立てや裾の形まで好きになりました。
せっかくの迷路なので、冬も全部は隠さずに。
羽織った服の下から、少しだけ見せて着ようと思います。