正体のわからない布
ストライプなのか、ブロックなのか。
織りなのか、編みなのか。
この生地を見ていると、最初に浮かぶのはそんな疑問です。
遠目には縦のストライプのようにも見えるのですが、近づくとその境界はどこか曖昧です。
一本の線がきれいに通っているわけではなく、細い帯のような組織が少しずつ継ぎ合わさって連なっている。
無地のような部分と、細かな柄のような部分が入り混じり、その切り替わりもどこかにじむように続いていきます。
その正体を確かめたくなって、しばらく生地を眺めていました。
でも見れば見るほど、むしろ答えは遠ざかっていく。
想像だけで一杯飲める布
わかっているのは、1950年代の生地だということくらいです。
どこで作られ、どんな人の手を経て、どうやってあの古い仕立て屋の棚にたどり着き、70年近く出番を待っていたのか。
そんなことを想像しているだけで、強めのお酒が飲めそうです。
普通のパンツには出せないムード。
ベーシックな場所にはいたくない人のための一本だと思います。
タグに書かれている文字は『Sütterlin(ズッターリン)』と呼ばれる、古いドイツの手書き文字。
1930年代ごろまでは、小学生なら誰もが習っていた書体だと聞きます。
そこにはこう書かれています。
『Deutsche Schneiderkunst』
直訳すれば、「ドイツ仕立ての芸術」。
古い仕立て屋の棚から
この生地が見つかったのは、バイエルン州南部アウクスブルクの古い仕立て屋。
フランクの帽子工場があるこの町を訪れた帰り道、脇道にある少し埃っぽい工房にふらりと立ち寄り、ヴィンテージ生地がないか尋ねてみたことがきっかけだったそうです。
1950年代の布が、その棚の奥で静かに眠っていた。
残っていた量はわずかで、このシリーズはどのアイテムも、その型、その色だけの生産になります。
ヴィンテージウールの軽さ
素材はウール100%。
ただ触った印象は、いわゆるウールの重さとは少し違います。
とてもさっぱりとしていて、どこか乾いたリネンのような軽さがある。
それでいて、ヴィンテージウール特有の、時間を経て角が取れたような柔らかな丸みも感じられます。
ブラウンとナチュラルを基調にした色ですが、実際にはベージュやグレーのような中間色が細かく混ざり合い、強いコントラストを作らず奥行きを生んでいます。
穏やかで、どこかやさしい表情の生地です。
ゆるさの中にある整い方
デザインは2タックのドローストリングトラウザーズ。
腰まわりにはゆとりを持たせながら、裾に向かって自然に流れていくシルエットです。
リラックスしたバランスなのに、不思議と太く見えない。
生地の軽さと縦の流れが、全体をすっきりとした印象に整えてくれています。
裾をロールアップすれば、少しテーパードした軽い表情に。
あえてクッションを作って穿けば、このヴィンテージ生地が持つ柔らかな落ち感を楽しめます。
もう答えはどうでもよくなる
こうしてあらためて見ていると、やはりこの生地は不思議です。
ストライプなのか、ブロックなのか。
織りなのか、編みなのか。
よく観察してみると、たぶんこれは編み地なのだと思います。
でも、織っていようが、ストライプだろうが、ボーダーだろうが、もはやそんなことはどうでもよくなってくる。
70年前に作られた布が、いまの服としてこんなに自然に成立している。
その事実だけでも、もう充分面白い。
『芸術』という言葉には、きっといろんな解釈がある。
このパンツも、たぶんそのひとつ。
自分なりの解釈と着こなしで、自由に楽しんでもらえたら嬉しいです。














