説明
シャツとジャケットの間から
僕は以前のBDU-Rを持っています。
シャツ生地で、くしゃっと身体に馴染み、暑い時期でも気軽に羽織れる。
シャツとジャケットの間にいる服。
僕の中でBDU-Rは、ずっとそんな存在でした。
今回のR2も、形そのものが大きく変わったようには見えません。
でも、袖を通した時の印象は少し違います。
決して厚手ではないのに、身頃にはきちんと面がある。
手持ちのBDU-Rがシャツの延長だとすれば、今回はちゃんとジャケットの顔をしています。
しかも、元になっているのはアメリカ軍の戦闘服なのに、どこか英国のハンティングジャケットのように見える。
正直、少しバブアーっぽい。
そこが、今回最初に惹かれたところでした。
崩すことで生まれたBDU
BDUとは、Battle Dress Uniform。
1980年代にアメリカ軍で採用され、長く使われてきた戦闘服です。
ただし、Post O’AllsのBDU-Rは、それをそのまま再現したものではありません。
着想源となったのは、兵士自身によってポケットを改造された一着の古着。
胸のポケットをひとつ取り外し、ペン差しだけを残す。
ほかのポケットも、マチの入り方や容量を街で使いやすいように組み直す。
完成された軍服を忠実に復刻するのではなく、一度崩して、シャツとジャケットの間にある服として作り直した。
それがBDU-Rです。
この左右非対称な胸元も、最初から変わったデザインを考えたわけではありません。
元の服からポケットを外した、その痕跡です。
右胸にはフラップ付きのポケット。
反対側には、取り残されたような細いペン差しだけがある。
整然と並べ直さず、その不揃いな状態を残したことで、軍服とは違う余白が生まれています。
夏に届いた、秋冬の黒
Post O’Allsだけ、ひと足早く秋冬が始まりました。
とはいえ、まだ夏の真ん中。
この時期に入荷することは分かっていたので、重たい秋冬生地ではなく、早い時期から着始められる60/40ツイルを選びました。
コットン60%、ナイロン40%。
少し滑りがあり、光を鈍く返す生地です。
すでに洗いがかけられているため、化繊混の生地にありがちな新品らしい硬さや光沢はありません。
色も真っ黒ではなく、少し墨黒のような見え方。
チャコールほど灰色ではない。
でも、深い黒が持つ強さは少し抜けています。
だから黒いジャケットでありながら、オリーブやブラウンの服とも馴染みやすい。
全身を暗い色でまとめても、黒だけが重く浮きません。
生地が服の立ち位置を動かす
手持ちのBDU-Rに使われているシャツ生地は、着ると細かなシワが寄り、そのまま身体へ落ちていきます。
一方、今回の60/40ツイルは、薄手ながら生地に密度と張りがある。
そのため肩から裾までの面が崩れすぎず、前身頃のポケットや襟の形もはっきりと見えます。
パターンが大きく変わったわけではない。
まず生地が変わることで、同じ形の立ち位置がシャツ側からジャケット側へ少し動いた。
そのジャケットらしい見え方を後押ししているのが、コーデュロイの襟です。
身頃と同じブラックなので、配色として強く主張するわけではありません。
けれど、首元に畝のある素材が入るだけで、軍服特有の乾いた感じが少し和らぎます。
襟を寝かせれば落ち着いた表情。
立てれば内側のコーデュロイがしっかり現れる。
隠されていたものを、表情に変える
R2で大きく変わったのは、そこに加わるボタンの見せ方です。
本来のBDUでは、装備などに引っ掛からないよう、フロントやポケットのボタンは隠されています。
ところがR2では、そのボタンをあえて外へ出している。
しかも、普通のプラスチックボタンではなく、金属の色がわずかに覗く打ち込み式です。
軍服では機能のために隠されていたものが、ここではジャケットの表情として使われています。
ポケットを外した古着からBDU-Rが生まれ、今度は隠れていたボタンを表へ出してR2になる。
完成された軍服の作法を、少しずつ崩しながら街の服へ変えていく。
形を大げさに作り替えず、細かな部分の意味を反転させているのが、この服の一番面白いところだと思います。
肘には、軍服に見られる二重の補強がありません。
袖も必要以上に太くなく、腰まわりも窮屈ではない。
前にはポケットとボタンが並びますが、背中は驚くほどプレーンです。
両脇のアジャスターを留めれば、腰まわりに少しだけ変化をつけることもできますが、形を強く作り込むためのものではありません。
前にはBDUらしい情報があり、後ろは静か。
この差があることで、ポケットの多い服なのに着姿が重たくなりすぎません。
シャツの気楽さ、ジャケットの顔
Tシャツの上からなら、夏の終わり頃から。
シャツの上に重ねて秋を過ごし、もう少し寒くなればスウェットや薄手のニットも入れられる。
本格的な冬のアウターではありませんが、春から冬の手前まで、かなり長い期間使えます。
シャツのように扱える気楽さがありながら、見え方はちゃんと上着です。
手持ちのBDU-Rがシャツ寄りだったからこそ、今回のR2がほんの少しジャケット側へ動いたことがよく分かります。
アメリカ軍の戦闘服から始まったのに、今季はどこか英国の服に見える。
それでも胸元には、昔の兵士が残した細いペン差しが、今もそのまま付いています。