説明
ひかえめな色が持つ、静かな強さ
冬の陽にふっと差し込む木漏れ日のような、穏やかな温度をまとったコートです。
このビッグチェックの色彩には派手さこそないのに、歩いていてふと紅葉に足を止めてしまうような、自然の調和をそのまま織り込んだような美しさがあります。
こういう色をデザインできるのは、きっと自然のグラデーションに静かに心を動かされる人なんだろうなと勝手に想像してしまうほどです。
時間をまとった布の存在感
使われている生地は、デッドストックのウール。
どこで織られ、どんな景色の中で保管されてきたのか、すべてが明らかではないのに、不思議と惹きつけられる力があります。
工業製品として大量に作られた「生地」とはまったく異なる、『布』が本来持つ温度がそのまま残っている。
人の手の気配が宿ったものは、時を経てもなお、その魅力を失わないのだと感じさせられます。
装飾を削ぎ落とすことで生まれる、美しい余白
FRANK LEDERの服づくりは、生地が主役。
だからこそ、つくりは驚くほど潔い。
余計な装飾を加えるのではなく、そぎ落とすことで素材の奥行きを静かに際立たせる。その姿勢が、このコートにもはっきりと表れています。
形はブランドの“ダスターコート”。
ロング丈の重さを想像しがちですが、背中に深く入るインバーテッドプリーツとラグランスリーブのおかげで、動くたびにふわりと揺れる軽やかさがあります。
僕には少し袖が長いので5cmほど折って着ていますが、そのさりげない抜け感も、このコートの自然体な美しさを引き立ててくれます。
その人の暮らしと融け合っていく一着
着用しているのはSサイズ。
もともと大きくとられたパターンなので、体格や着方が違っても、それぞれの人が無理なく馴染ませられる懐の深さがあります。
男性が羽織れば大らかに、女性が纏えばストンと落ちる線の美しさが際立つ。性別ではなく“その人の空気”を静かに受け止めて形にするような一着です。
僕くらいの身長の人が着ると、ほとんどコートだけでスタイルが成立してしまうほどの存在感があります。
それでも周囲を押しのけないのは、この生地が持つ“時間の深さ”ゆえかもしれません。
日常の片隅にそっと置かれた古い椅子や器のように、語らずとも伝わるものがある。
派手さではなく、静かに積み重なった美しさ。
着るほどに、その人の暮らしとゆっくり混ざり合っていくコートです。